創立者・新島襄の建学の精神を受け継ぐ同志社大学。
京都の豊かな文化の中で、多様な人と共に学ぶキャンパスライフは、どのようなものなのか。
そして、同志社大学が育みたい力とは――。
商学部3年次生の三浦千緋呂さんと、理工学部3年次生の水谷優太さんが、植木朝子学長にインタビューしました。

PROFILEプロフィール

植木朝子Ueki Tomoko

同志社大学学長

1990年、お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。98年、博士(人文科学)(お茶の水女子大学)。2005年から同志社大学文学部国文学科助教授、07年同教授。文学部長(15年)、副学長(17年)を経て、20年4月から現職。

インタビュアー

水谷優太Mizutani Yuta

理工学部数理システム学科3年次生

岐阜県出身。SIED在籍、キリスト教文化センター学生スタッフ。

三浦千緋呂Miura Chihiro

商学部商学科3年次生

山口県出身。体育会卓球部主将、2022関西学生リーグ春季・秋季優勝。

三浦私は、卓球のスポーツ推薦で同志社大学の商学部に入りました。この春から体育会卓球部の主将を務める一方、金融や商品学などを学んでいます。植木学長は、どんな学生時代を過ごされていたのでしょうか。振り返ってどんな力がついたと思いますか。

植木日本の古典文学を研究していて、当時の日本はバブル期でしたが、図書館にこもってよく古い本を読んでいました。学問とはどういうものかがまがりなりにもわかったのは、4年間の集大成として卒業論文をまとめた経験からです。知識を蓄積していく中で、通説や常識といわれているものを鵜呑みにせず、自分で納得するまで調べる。そして、「これは違うんじゃないか」と考えたところで、自分の独自性が見出せます。「○○だと思います」というのは単なる感想で、なぜそう言えるのか、根拠を持って論じることが重要です。常識を疑い、自分で調べて、根拠を持ってものごとを論じる力を身につける。そのきっかけが、学生時代に掴めたかなと思います。

三浦納得するまで考える、という点では、スポーツも共通する部分があります。私は、「自分に足りないものは何か」を知りたい、考えたい、と思うのは「失敗した」と感じた時です。それは卓球の試合に負けた時。とても悔しい負け方をした経験もありますが、その時は、「自分に何が足りなかったか」をビデオを何度も見返して課題を克服しようと努力しました。もし勝ってしまっていたら、きっと「嬉しい」で終わってしまっていた。負けた方が、これからどうするかを考えることができるのだと思います。

植木素晴らしいですね。ダメだったと反省することは、成長のきっかけになります。悔しいけれど、無駄じゃない。一つのことに取り組む中で、順調に進みすぎると気づかないけれど、つまずいたときにいろいろ気づく。間違えて気づくこともあります。いつもうまくいっていたら、「これでいいんだ」と思ってしまう。自分の正しさを過信すると危険な場合もありますね。自分を振り返らなければいけない時もある。それは、どの分野でも同じですね。

水谷僕は岐阜県の出身です。理工学部数理システム学科で学んでいるのですが、幼少期から池坊の華道も習っていて、伝統文化のある京都に惹かれていました。外国人が多く、街中には外国人に向けた看板などもあふれているし、そんな京都の独特の空気感に憧れていました。学長のご出身である関東と比較して、京都の学生生活はどのような違いがあると思われますか。

植木祇園祭や華道や茶道、西陣織や京料理などの伝統文化がごく身近にある。それが関東と比べた時の京都の大きな特徴ですよね。私は、日本の古典文学を専攻していたので、古典の舞台もある京都に来られることになって、本当に幸せでした。祇園祭の時期に、浴衣で学生がキャンパスを歩いているなんて、素敵ですよね。歴史ある寺や神社もあふれています。その一方で、京都発の最先端の企業もあり、古いものと新しいものが共存しています。

三浦私は山口県の出身で、中学から6年間、大阪で暮らしました。今は京田辺市在住ですが、同じ関西でもにぎやかな大阪とは違い、京都は自然がありながら日本の文化にも触れられていいなと思っています。

植木大阪も京都も、共通しているのは言語文化が成熟していること。関西の府県には共通点もあるけれど、独自の文化もあって、少し足を伸ばせば違った文化に触れられる。東京は広く一色なので、その点は大きく違います。狭い範囲に多様性があるのが面白いですね。

水谷同志社大学は、2021年3月にダイバーシティ推進宣言を制定しました。僕は国際交流の推進を目指す、留学生課の組織「SIED」のスタッフとして活動しています。その活動を通じて、同志社大学にはいろいろな人がいるなという実感をもっています。ダイバーシティの取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。

植木創立者の新島襄は、アメリカでキリスト教の中でも多様性を重んじる会衆派の信仰を身に受け、日本に戻って同志社をつくりました。その精神を、私たちも引き継いでいきたいと思っています。ダイバーシティ推進のための取り組みは多岐にわたりますが、当面取り組む4つの柱の一つが多文化共生・国際理解です。21年には国内の学生と留学生が生活を共にして学び合う教育寮の「継志寮」が誕生しました。「SIED」は、大学側が引っ張っていくのではなく、学生さんがダイバーシティを自ら体現してくれる存在ですね。

水谷「SIED」スタッフも国籍はさまざまです。各自の個性やルーツを活かし日本らしさ、京都らしさを学びたい留学生とローカル学生が国際交流できるイベントを実施しています。活動を通じてさまざまな国のことを知れることに加え、僕自身も伝統文化を紹介するために学びなおし、新たな発見がありました。

植木まさに多様性ですね。残りの柱は、障がい者支援と男女共同参画・ライフサポート、そしてSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity:性的指向と性自認)理解・啓発です。多文化共生・国際理解を推進するための施策の一例に京セラ株式会社と取り組んでいる「わかりやすい字幕表示システム」の実証実験があります。話した内容がリアルタイムにスクリーンに文字として表示されるボードを設置していて、言語の切り替えもできるので、耳が不自由な人や外国の人をサポートできます。小さなことですが、そういうボードが「置いてある」ことで、今まで意識していなかった人が「そうか、困っている人がいるんだな」と思う。そこが大事かなと思っています。

三浦学長に就任された直後に新型コロナウイルス感染症の感染拡大があり、大変だったと思います。コロナ禍の中で、感じられたことはありますか?

植木コロナ禍の3年間を経験して、対面で人が触れ合うのがいかに大事か、ということをあらためて思いました。困難の中でも得たものもあります。コロナをテーマに、あらゆる分野の先生から研究を募集して、「AllDoshisha Research Model」をつくることができたのです。生命学の分野、経済への影響、働き方、文学、信仰などさまざまな視点から、想定の倍を超える77もの研究が集まりました。

三浦私も、入学して3年間、学長と同じようにコロナ禍での大学生活でした。自宅でトレーニングして、練習時間が短い中で集中して取り組まなくてはいけない状況でしたが、関西学生リーグ春季・秋季優勝を果たせたことは心に残っています。学長は、この3年間でどんなことに力を入れられたのですか。

植木創立150周年を迎える2025年に向けた「VISION2025」の推進です。初期の施策の重点はリーダー養成プログラムにありましたが、私が学長になってからはそれに加えて「広がり」をキーワードに、全学に波及する取り組みを進めています。英語教育改革では、レベル別指導をさらにきめ細やかにし、将来の職業も意識した多彩な科目を設置しました。そして今年から始めたのが、同志社データサイエンス・AI教育プログラムです。リテラシーを身につけ、段階を踏んで高度な知識を習得し、最終的には大学院生に専門的に学んでもらう想定です。研究分野でも「広がり」を意識しており、先ほどのAll Doshisha Research Modelはその一例です。また、産学連携を進め、本学卒業生が取締役会長を務めるダイキン工業株式会社と一緒に、CO2削減に向けた研究に取り組んでいます。

三浦同志社大学の学生たちには、4年間で何を身につけてほしいと考えていますか。

植木私が学生時代に培ったような、常識を疑って自分で調べ、根拠を持ってものごとを論じる力をぜひ身につけてほしいですね。そのためには、知識が必要です。知識がないと独自性も生まれないと思うので、頭の柔らかい時にたくさん吸収してほしい。アウトプット重視の時代になっているようにも感じられますが、どれだけ資料を綺麗に作っても、中身がないと表層だけになってしまいます。アウトプットだけでなく、インプットも大事です。

水谷僕は、純粋数学を専攻していますが、教授からは「知識を蓄えて、自分の中で学問の世界をイメージできるようになりなさい」と言われました。定義、定理を学び問題を解けるようになることは知識があるということです。そこから、それらの意義や、仕組み、なぜ成り立つのかということが見えるまで、より学びを深めて自分のものにしていく。そうすると、新しい分野に進んだ時に、証明が成り立つ論文が書けるらしいです。そういう意味では数学の分野は、知識を大事にしているんですよね。

三浦私は、大学に入るまではとにかく卓球を頑張ってきましたが、金融や商業のことを学ぶうちに勉強の面白さに目覚める、という経験をしました。私の周りには、卓球を頑張ってきた人も、勉強を頑張ってきた人もいますし、卓球のプレースタイルもそれぞれ違います。みんなが得意なことを伸ばせるように意識してチームを作ってこられたことは、よかったかなと思っています。

植木自分と違うタイプの人に出会ったとき、その人が何を考えているのか理解しようとすることは、ダイバーシティにつながってきます。知識を蓄える時は、それぞれの専門家や著者に対して敬意を払う。ディスカッションするときも、相手の考えにきちんと耳を傾ける。それが、混迷の時代を生き抜く力の基礎になる気がします。多様性を重んじ、他者を尊重できる人に育ってほしいです。

水谷正直に言うと、純粋数学は社会に出てもすぐには役に立たない気がします。でも、学ぶことはとても楽しいです。学長は、同志社大学が世に送り出したい人物像のイメージはお持ちでしょうか。

植木私も日本の古典文学を研究していて、「何の役に立つのか」と言われてきました。けれど、「役に立つ」という判断基準は、不安定なものですよね。30年ほど前にAIの研究を始めた先生が、当初は「何の役に立つのか」と言われたそうです。そう言われながら研究していた20年、30年があるから、大事な時に生きる。コロナのワクチンもすぐに開発できたのは、それまでに基礎研究が重ねられていたから。そもそも「役に立つ・立たない」というのは一つの価値観でしかないのですから、一方的な狭い視野で短期的に考えるのではなく、広い視野で長期的に考えられる人を送り出したいですね。

水谷「役に立つ・立たない」という基準に関係なく自由に学ばせてもらえる環境は、魅力です。同志社大学の教育理念には、自由主義がありますね。自ら動かなければ何も得られないけれど、活動すれば力になってもらえる。聞きに行けば、教授はいろんなことを教えてくれます。「SIED」のほか、キリスト教文化センターの学生スタッフとしても活動しているのですが、積極的に自分から飛び込めば大学がサポートしてくれます。

植木新島襄は、「自ら立ち、自ら治むる」という言葉を残しています。育てたいのは、責任感を持って自由に行動できる人。キリスト教主義的にいえば、神の前で良心に恥じないように責任を持って行動できる人です。同志社大学は、自分でやろうと思えば機会が与えられる大学です。

三浦勉強もスポーツも、環境が整っていて自分がやりたいと思うことを思いっきりできる大学だと、あらためて思います。これから同志社大学を目指す受験生に向けて、メッセージをお願いします。

植木同志社大学は、新島襄の精神を受け継いで、多様性に満ちた寛容な大学だと思います。本学が大事にしている「多様な他者を理解する」という学びのためには知識も必要なので、受験勉強はきっと大学での学びに生かされます。一人一人が輝けるキャンパスですから、ぜひ本学の門をくぐってください。

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